JR紫波中央駅のすぐ目の前に広がるオガール地区。自然豊かな田園が広がるこの街は、盛岡まで約20分という好立地にあります。ここにつくられるエコタウンやさまざまな施設、そして街の特長について、オガールプロジェクトのプロデュースを担当する清水義次さん、住居や街全体のデザインを担当する佐藤直樹さん、設計を担当する竹内昌義さんの3人に聞きました。

清水
紫波は空が広いんだよね。
佐藤
こんなに空を広く感じる場所ってなかなかないんじゃないかな。
竹内
日本じゃないみたいですよね(笑)。
佐藤
オガールの西側は開けた田園地帯になっていて、非常に見晴らしがいいですよね。山が近くにあって。東側はすぐ駅で盛岡に出られる。都市部も近くて、これだけ広いのにコンパクトで、安心感があって。こんなに理想的な環境はないですよ。

竹内昌義(写真:川瀬一絵)
竹内
住宅を紫波町の木材を使って、作るようにしたいと考えています。太陽電池などの機械に頼らなくても、断熱材を厚くしたりしてできるだけエネルギーのかからない家を考えているのです。暖かく風通しもいい、そんな心地いい家をつくります。
清水
竹内さんが設計された山形のエコハウスに行ったことがあるんですが、家のどこにいても温度に差がないんですよ。すごく快適でのびのびできましたね。
竹内
これまで日本の家は「建っていればいいだろう」と思われていて、それをちゃんと見直すには家自体の性能を上げていくしかない。それで断熱材や換気扇のことをちゃんと考えてみました。
清水
経済的に考えても年間で消費する石油代はすごく違いますよね。
竹内
冬も長いですからね。木材で家をつくって、端材などをエネルギーにすればムダのない理想的な循環ができますよね。オガールはそれをモデルになる可能性があります。
佐藤
いままでは大きな電力会社が一括して電力を供給していましたよね。まだ時間がかかるかもしれないけど、今後はエネルギーもできるだけ地産地消にする方向になりますよね。

清水義次(写真:川瀬一絵)
清水
建具をはじめとした木材、タイルや畳、ガラス、漆喰、染め、金属の加工など、多岐にわたって地元の業者さんと一緒に住宅を設計していることもオガールのユニークな点です。
佐藤
大きなメーカーの企業努力は確かに優れているけど、できあがったものをそのまま使ってすごく幸せになるかと言うと、必ずしもならないんですよ。やはり地元の人が関わっていることが大事で、もともと自然循環の考え方に基づいてつくられていた紫波ならではの家を、現代の生活に合わせて新たにつくる。そこが特筆されるべきところですね。
竹内
ハウスメーカーの家は「完成したら後は知らないよ」という仕組みなんですよね。だけど家って生活にあわせてどんどん変わっていくので、必ず手を入れないといけない。その時に地元の業者さんがつくっていると「ここ、こうしてよ」って頼みやすいわけです。
清水
建物は普通なら時間が経つことはネガティブに捉えられるけど、ここでは時間の経過が愛着や価値を生むと考えています。大事なのはそれをどう維持・継続していくかですよね。
佐藤
建った直後の状態じゃなくて、住む人が自分で色を塗り替えたりタイルを貼りかえたりして家をメンテナンスしていくことに価値を持っていく。その方が長い目で見ればより価値が高いわけです。
竹内
家って家族の生活を守る場所だと思うんです。こういうとても基本的なことをやっていくと「新しい暮らしができる」ということを体験してほしいし、家で過ごす時間をもっと贅沢にしてほしいなと思いますね。

佐藤直樹(写真:川瀬一絵)
清水
オガールは住宅地だけじゃなくて街全体で計画されているのが特長です。
佐藤
オガールにある「紫波マルシェ」は紫波町全体で10番目の産直施設。他の9カ所は場所ごとに得意な食材を置いていて、人が集まるオガールにはできるだけたくさんの食材が置いてある。もっとディープな食材が欲しければ他の産直に行く、というルートがちゃんとつながっているんですよね。
清水
紫波町は食べ物もいいんだよね。紫波町の自給率は170%ですから。
竹内
フランスみたいですね(笑)。
清水
それから、子育て支援施設もあれば、保育所も計画されています。小さなお子さんがいらっしゃる方にはいいですよね。
竹内
小学校は徒歩圏内、中学校はすぐ近くにありますね。
佐藤
オガールにある図書館の利用率がまたすごいんだよね。盛岡から高校生がわざわざ来ていたり。それから、オガールベースも楽しみですよね。みかんぐみ出身のらいおん建築事務所代表の嶋田洋平さんが設計されていて。
清水
オガールベースには宿泊施設と体育館が入るんですよ。
佐藤
そう。加えて、オガールプラザの南側にはサッカーもできる屋外施設がある。その他にテナントも入って、普通に便利な生活をちゃんとできるようにしてありますね。駅前にここまで便利なものはなかなかないですよ。どこでもこういう条件が整うわけではないですから。
竹内
街としての価値を、ひとつひとつの家じゃなく全体で考える。そうするとみんながハッピーになれるんですよ。しかも働くことや買い物すること、そういった街自体を循環型でつくるなんて、実はどこもやっていないんですよね。
清水
敷地主義をやめてエリアの価値を高めよう、という考え方が全体に通底していますよね。それが将来的な価値になる可能性が高い。
佐藤
住宅ができる時期には役場庁舎もオガール地区にやって来ますよね。図書館や子育て応援センターのように行政が担う施設がすごく身近にある。紫波町は行政の人たちと市民の人の距離がすごく近くて、すぐに声を聞いてくれてすぐにやってくれる。それは、町長さんが中心となって10年来そういう流れをつくってきたからですよ。
竹内
これだけのものが実現できたのは3万4千人という街の人口規模だけじゃなくて、役所の方の柔軟さのためでもありますよね。
佐藤
なかなかないことですよね。オガールの街づくりの発想は、賭けに出るような突飛なものじゃなく、この街が10年来続けてきた試行錯誤の上にできている。だから安心して未来に一歩踏み出ていると思いますね。

清水義次

清水義次(しみず・よしつぐ)
建築・都市・地域再生プロデューサー、株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役。都市生活者の潜在意識の変化に根ざした建築のプロデュース、プロジェクトマネジメント、都市・地域再生プロデュース、現代版家守によるリノベーションまちづくりを全国で展開中。東洋大学大学院公民連携専攻客員教授、3331アーツ千代田代表。

佐藤直樹

佐藤直樹(さとう・なおき)
グラフィックデザイナー、アートディレクター。デザイン会社ASYL代表。主な仕事に雑誌『WIRED』日本版(1994〜1997)、『ART iT』(2003〜2009)などのアートディレクション、「六本木クロッシング2007:未来への脈動」展(森美術館)のキュレーション、アートディレクションなど。主な受賞にN.Y. ADC賞、THE ONE SHOWインタラクティブ部門金賞、東京ADC賞など。多摩美術大学准教授。

竹内昌義

竹内昌義(たけうち・まさよし)
建築家。1995年から建築設計事務所「みかんぐみ」を共同主宰。主な代表作にShibuya AX、愛・地球博トヨタグループ館、伊那東小学校、Y150はじまりの森、マルヤガーデンズリノベーション、山形エコハウスなど。『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』(INAX出版)、『原発と建築家』(学芸出版社)、『図解 エコハウス』(エクスナレッジ)など著書・共著書多数。東北芸術工科大学教授。